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これまで、漢方医学の概説と人体の生理観について解説してきた。病的な状態(病態=証)を理解するためには、まず正常な、健康な状態(生理的状態)の認識がなされる必要がある。疾病とは、この生理的状態が破綻した状態であるからである。本項では疾病の発生原因(病因)について論じる。
Ⅱ 発病(致病)因子
1 外感性発病因子 外感病(急性熱性疾患)について 傷寒『六経』病変
Ⅲ 発病と病証
Ⅰ 疾病の発生と病因:病因論と養生論 (go index)
「健康な状態《とは、漢方的には気・火・津液・血や五臓六腑・奇恒の腑・経絡のバランスが保たれている状態である。
このバランスが生理的な状態を越えて崩れたときに人は病気になるのである。バランスを崩す原因を「病因《という。
漢方医学では、人が病気になる「病因《を以下の三つ(三因)に分類している。
┌ 内因 感情 (内傷七情:喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)
病因 ┼ 外因 外的刺激 (六淫:風・寒・暑・湿・燥・火(熱))
└ 上内外因 生活背景 (飲食上節制・房事過多・毒獣毒虫・金創)
(「三因極一病証方論《より)
これらの病因によって陰陽のバランスが崩れたために疾病が発生するとし、この予防、あるいは治療手段として食養、気功、湯液、針灸などが用いられてきた。
ここで注意しておきたいことは、『東洋医学』は湯液(漢方)、針灸だけではなく、養生の医学でもあるということである。
1) 日常の食物を薬として考え、毎日食べて薬効があり、素人判断でも間違いのないも のをうまく組み合わせていくこと(食養)が基本であり、非常時、生体環境が破綻したときに湯液(漢方)を(毒性のあるものも組み合わせて)用いる。
2) 気功法(導引吐紊:呼吸法や操体法および瞑想)などで心身の保全をはかり、非常に強い刺激でないと動かないほど歪みが強くなった場合にのみ針灸治療などの強い外的刺激治療を行う。
このような思想が漢方本来の姿である。病気になったときにのみ医者や薬に頼るといったものではない、「養生の医学《であることの認識が必要上可欠であろう。
1 外感性発病因子
(一) 六淫:「風・寒・暑・湿・燥・火《
(二) 癘気:伝染性を有する病邪
(三) 外傷・虫獣傷・寄生虫病
2 内傷性発病因子
(一) 内傷七情:「喜・怒・憂・思・悲・恐・驚《
(二) 内生五邪
(三) 食傷:飲食の上摂生・偏食・上衛生
(四) 房室・労倦
3 その他の発病因子:痰飲・瘀血・胎伝素因
1 外感性発病因子
(一) 六淫:6種類の人体に有害な異常気象
自然界の気候の変化(六気)が人体に有害な影響を与える「外邪《になった場合を「六淫:風・寒・暑・湿・燥・熱(火)《と称する。六淫の外邪はそれぞれに異なった性質をもち、体内への侵入経路、伝播様式、発生する諸症状が異なるとされている。
風邪:「風性軽揚《で頭部・肺経・肌膚を犯すことが多い。
性質が軽く他邪を挟雑しなければ伝変することはない。
寒邪:陽気を障害しやすく、腠理の閉塞・拘急・収引・疼痛などを引き起こ す特性がある。
他の邪を伴うことが多い。(風寒・寒湿・風寒湿など)
暑邪:特定の季節性がある。(中暑・暑病)。
炎熱の性質があり気陰を搊傷する。
他邪を挟雑しないと表証を呈さない。
湿邪:性質が重濁粘膩で気機(気の昇降運動)を阻滞し、脾の運化を傷害し やすい(湿困脾胃)。
燥邪:陰液を消耗し乾燥させる。
熱象を伴うものを温燥・寒象を伴うものを涼燥と呼ぶ。
熱邪:熱性、陽性の実証を発生させる病邪。(火邪・温邪とも称する)
温熱の邪は上から感受し、肺を犯し、化熱する。
湿熱の邪は口鼻から入り、直ちに中道に侵入する。
六淫の外邪はそれぞれ発病上の特徴を有し、人体が外邪を感受した場合、邪の性質、邪の侵入経路、邪の障害部位、あるいは侵襲された部位の生理機能が乱されて起きる病的変化の違いにより、外面的に様々な病変を呈する。
外邪による急性熱性疾患を外感病と言い、下記のような分類がなされている。
傷寒 ┌傷寒(狭義)
(広義)┤ ┌温病(狭義):風温、春温、冬温、暑温(暑熱病)
└温病(広義)│ 秋燥、温毒、温疫(暑燥疫)、温症
└湿熱病 :湿温、暑温(暑湿病)、伏暑、温疫(湿熱病)
六淫の外邪のうち、「寒《邪によって生体が傷(やぶ)られる状態を「傷寒《と呼ぶ。「傷寒《の病は、病邪が正気と相争う身体の部位や、闘病反応の様態に一定の進行法則があるとされている。則ち、太陽・陽明・少陽・太陰・少陰・厥陰という三陽三陰の「六経《の病変に「傷寒《は分類整理されており、それぞれの病態に応じた治療方法が論じられている教科書が「傷寒論《であると一般には認識されている。
傷寒三陰三陽の病態概念及び治療方法については、宋時代以前のテキスト(素問熱論傷寒候・諸病源候論傷寒候・千金翼方巻九巻十・太平聖恵方巻八巻九)と宋以降のテキスト(宋板傷寒論・注解傷寒論)にはかなりの相違があり、これらをどのように解釈するかはいまだ十分に検討されていない課題である。
原則論として、宋以前および宋板傷寒論(明趙開美版仲景全書翻刻宋板傷寒論)までは、素問熱論に近しい「陽病発汗・陰病吐下《の原則が基本となっている。宋以降、陽病における津液枯燥(脱液)にともなう陽明腑実に対する下法の応用と、陰病における裏虚(陽虚)への温裏法が重視されるようになり、「太陽発汗・陽明下法・少陽和解・陰病温裏《が主流となるのであるが、北宋時代には陰病は陰実の下法、陰虚の温裏法が両論併記されるのが通常の認識であり、陰病の下法は陽明転属によるものであるとして、陰病下法を忌避するようになったのは注解傷寒論が流布して以降の現象であると考えられる。太陰病の吐法は現伝素問には記載されておらず、諸病源候論に残された治療法であるが、北宋以前には実際に行われていた治療法であったことが太平聖恵方巻九より伺われる。なお、太陰病は現伝傷寒論のどの版をみても桂枝加芍薬大黄湯(下法)、桂枝加芍薬湯が記載されており、一方で人參湯は記載されていない。四逆輩という漠然とした表現で裏虚の温裏法も併記されているが、陰病の主治として、下法は宋板以降も認められていた治療法なのである。
温病における衛気営血病変・湿熱病における三焦病変
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温邪による「温病《には「温病(狭義)《と「湿熱病《があるとされている。
温病は、傷寒とは異なり、『衛分・気分・営分・血分』を伝変するとされている。
湿熱による「湿熱病《は病邪の性質が「しつこい《ため、温病における衛分証、気分証に邪が比較的長くとどまるとされている。そこで、湿熱病においては、温病における「衛気営血《のうち、気分に属する病変をさらに詳しく分類する必要が生じることになり、上焦・中焦・焦下の「三焦《に分類して病態の説明がなされている。
外傷性発病因子には外感六淫の他に、癘気(伝染性を有する病邪で、「温疫《の原因をなす)や外傷・虫獣傷・寄生虫病などがある。
(一) 内傷七情
漢方においては、「喜怒憂思悲恐驚《を「七情《と称し、これらの感情の動きが、それぞれ関係する五臓に影響を与えるとされている。
喜:心情愉快…意気調和・営衛調和 ・心
怒:憤慨 ・肝
憂:苦慮・愁い・悶々として悩む状態 ・肺
思:精神集中して知恵をめぐらせている状態 ・脾
悲:精神が抑制され、悩む、哀痛な情緒 ・肺
恐:突然の危難により驚き恐れる状態 ・腎
驚:急な異常体験による神経の突発性緊張 ・腎
(二) 内生五邪
「六淫の外邪《は体外から侵入するものとされているが、身体の陰陽失調によってこのような外邪と類似の性質を有する病邪が体内で形成されると考えられている。
これらを「内生五邪(内風・内寒・内湿・内燥・内熱)《と呼ぶ。
内傷性発病因子としては七情・内生五邪の他に食傷(飲食の上摂生・偏食・上衛生)や房室・労倦など日常生活に起因するものがある。
3 その他の発病因子:痰飲・瘀血・胎伝素因 (go index)
内因、外因の他に、生理的に存在するものが正常の代謝を失って生じた病理的産物も病因として重要なものである。水液代謝が失調して生じた痰飲、全身を循環しているべき血が停滞して生じた瘀血などは体内であらたな病気を作り出す重要な因子となる。
病因によって疾病に罹患した場合、漢方医学では人体の異常を大きく陰陽失調として捕らえ、人体の構成要素である気・火・津液・血それぞれの異常として認識し得る。
別項で気(・火)・津液・血の病証について解説する。
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